超新星背景ニュートリノ探索
私たちの身体をはじめ、地球上の生物は主に炭素、水素、酸素、窒素、硫黄、リンなどでできていますが、これらの元素(原子)がどこで、どのように生まれたかについて考えてみましょう。これらは、地球の材料でもあるので、地球が生まれたときから、そこの宇宙にあったもののはずです。だから、宇宙の始まったとき「ビッグバン」のときに作られたと思うかもしれませんが、「ビッグバン」では水素、ヘリウム、リチウムといった元素の周期表のもっとも軽い3つしか作られないことが分かっています。実は、残りの元素は夜空に輝く星のなかで作られ、その星が死ぬときに宇宙にまき散らされると考えられています。地球が生まれる前に死んだ星の中で作られ宇宙へ放出されたもの、つまり、私たちは星のかけらでできているとも言えるのです。
星の死に方は、その星の質量で決まりますが、太陽の8倍以上の質量の星は自分自身の質量を支えられなくなって、最後に「超新星爆発」という大爆発を起こします。この超新星爆発で、ビッグバンの時には存在しなかった元素(上図のオレンジ色の元素)が生成されます。この爆発を引き起こすのがニュートリノです。実は、この爆発の際に解放されるエネルギーの99%はニュートリノとして放出され、残りの1%ほどが爆発のエネルギーになります。超新星爆発の際に元素がまき散らされると同時に膨大な数のニュートリノもまき散らされるのです。
こうして放出されたニュートリノは、今も宇宙を旅しており、「超新星背景ニュートリノ」と呼ばれています。宇宙の歴史のなかでこれまで100,000,000,000,000,000 (=1017) 回くらい起きたと思われる超新星爆発のたびに宇宙に蓄積されているはずのものです。超新星爆発の度に、新たに元素とニュートリノが宇宙に放出されるのですから、宇宙の元素の歴史を検証するにはこの蓄積されている「超新星背景ニュートリノ」を実際に検出して、その量を測定できればよいことになります。つまり、「宇宙背景ニュートリノ」の観測によって、宇宙に星が生まれる割合、生まれた星の大きさの分布、超新星爆発の頻度などの、宇宙の元素の歴史を詳しく研究することができます。しかし、残念なことに、この「宇宙背景ニュートリノ」は、まだ発見されていません。
そこで、スーパーカミオカンデは「超新星背景ニュートリノ」の世界初検出を目指し、2018年から検出器性能の向上をさせる「SK-Gd計画」というアップグレードをすすめていました。ニュートリノには6つの種類があるのですが、スーパーカミオカンデは(水の中の陽子が多いので)そのうちの一つ、「反電子ニュートリノ」を捉えるのが一番得意です。しかし、他のニュートリノやその他のバックグラウンド事象もすべて超純水中で円錐形に放出されるチェレンコフ光を通じて検出するので、本当に反電子ニュートリノかどうか判別するのが難しいという問題がありました。様々な研究を重ね、超純水へ硫酸ガドリニウムを溶かすことで、反電子ニュートリノがやってきたときは2回チェレンコフ光が出るようにすることができました。これにより、超新星背景ニュートリノのうち反電子ニュートリノに対する感度が各段に向上しました。

SK-Gdで反電子ニュートリノが2回チェレンコフ光を出す仕組み
2020年に最初の硫酸ガドリニウムを導入した後、2022年に硫酸ガドリニウムを増量(合計40トンを導入)し、超新星背景ニュートリノの観測を続けています。今回、2023年9月までの956日分データを解析して国際会議Neutrino2024(イタリア、ミラノ)で発表しました。このデータには、超新星背景ニュートリノと思われる事象の兆候がありましたが、まだまだ統計が足りなくて決定的なことは言えない状況です。今後もSK-Gdで5年ほど観測をつづけると十分な数の事象が貯まって、結論できそうです。これからのSK-Gdの観測にご期待ください。

給水中のスーパーカミオカンデ

超高純度硫酸ガドリニウム

溶解装置で作成中の硫酸ガドリニウム水溶液
星の死に方は、その星の質量で決まりますが、太陽の8倍以上の質量の星は自分自身の質量を支えられなくなって、最後に「超新星爆発」という大爆発を起こします。この超新星爆発で、ビッグバンの時には存在しなかった元素(上図のオレンジ色の元素)が生成されます。この爆発を引き起こすのがニュートリノです。実は、この爆発の際に解放されるエネルギーの99%はニュートリノとして放出され、残りの1%ほどが爆発のエネルギーになります。超新星爆発の際に元素がまき散らされると同時に膨大な数のニュートリノもまき散らされるのです。
こうして放出されたニュートリノは、今も宇宙を旅しており、「超新星背景ニュートリノ」と呼ばれています。宇宙の歴史のなかでこれまで100,000,000,000,000,000 (=1017) 回くらい起きたと思われる超新星爆発のたびに宇宙に蓄積されているはずのものです。超新星爆発の度に、新たに元素とニュートリノが宇宙に放出されるのですから、宇宙の元素の歴史を検証するにはこの蓄積されている「超新星背景ニュートリノ」を実際に検出して、その量を測定できればよいことになります。つまり、「宇宙背景ニュートリノ」の観測によって、宇宙に星が生まれる割合、生まれた星の大きさの分布、超新星爆発の頻度などの、宇宙の元素の歴史を詳しく研究することができます。しかし、残念なことに、この「宇宙背景ニュートリノ」は、まだ発見されていません。
そこで、スーパーカミオカンデは「超新星背景ニュートリノ」の世界初検出を目指し、2018年から検出器性能の向上をさせる「SK-Gd計画」というアップグレードをすすめていました。ニュートリノには6つの種類があるのですが、スーパーカミオカンデは(水の中の陽子が多いので)そのうちの一つ、「反電子ニュートリノ」を捉えるのが一番得意です。しかし、他のニュートリノやその他のバックグラウンド事象もすべて超純水中で円錐形に放出されるチェレンコフ光を通じて検出するので、本当に反電子ニュートリノかどうか判別するのが難しいという問題がありました。様々な研究を重ね、超純水へ硫酸ガドリニウムを溶かすことで、反電子ニュートリノがやってきたときは2回チェレンコフ光が出るようにすることができました。これにより、超新星背景ニュートリノのうち反電子ニュートリノに対する感度が各段に向上しました。

SK-Gdで反電子ニュートリノが2回チェレンコフ光を出す仕組み
2020年に最初の硫酸ガドリニウムを導入した後、2022年に硫酸ガドリニウムを増量(合計40トンを導入)し、超新星背景ニュートリノの観測を続けています。今回、2023年9月までの956日分データを解析して国際会議Neutrino2024(イタリア、ミラノ)で発表しました。このデータには、超新星背景ニュートリノと思われる事象の兆候がありましたが、まだまだ統計が足りなくて決定的なことは言えない状況です。今後もSK-Gdで5年ほど観測をつづけると十分な数の事象が貯まって、結論できそうです。これからのSK-Gdの観測にご期待ください。

給水中のスーパーカミオカンデ

超高純度硫酸ガドリニウム

溶解装置で作成中の硫酸ガドリニウム水溶液