二重ベータ崩壊研究と同位体濃縮技術
物質優勢宇宙の謎
宇宙はビッグバンから始まったと考えられています。その宇宙初期には「物質」と「反物質」が同じ量だけ生まれたはずです。ところが現在の宇宙には、「物質」しかほとんど存在していません。最初にもし「物質」と「反物質」が同じ量だったなら、「物質」と「反物質」は対で消滅したり、生成したりしても、それでも「物質」と「反物質」の量は同じになるはずです。——ならば、なぜ現在の宇宙は「反物質」がなく「物質」でできているのでしょうか?この謎を「物質優勢宇宙の謎」といいます。この謎を解くカギとされているのが、「ニュートリノを出さない二重ベータ崩壊」という事象です。
ニュートリノを出さない二重ベータ崩壊
二重ベータ崩壊は、ある原子核内の中性子2 個が陽子2 個に変わることで、別の原子核に変わるという事象です。通常の二重ベータ崩壊では、別の原子核になったうえで、2 個の電子と2 個のニュートリノが出てきます。しかし、「ニュートリノを出さない二重ベータ崩壊」では、電子だけが出て、ニュートリノは出てきません。この現象は、ニュートリノが「粒子自身と反粒子が同じ」という特別な性質—マヨラナ性—を持つときにだけ起こりえます。これは、とても不思議な性質です。普通、粒子には、反対の性質をもつ「反粒子」があります。たとえば、粒子である電子には反粒子として陽電子、のように普通はペアになっています。そのような中で、「粒子自身と反粒子が同じ」というのはとても不思議な性質なのです。—「粒子自身と反粒子が同じ」という不思議な性質によって反物質に対して物質が多く残った— これが「物質優勢宇宙の謎」を解く有力な説とされています。

ニュートリノを出さない二重ベータ崩壊。
ニュートリノが「粒子自身と反粒子が同じ」という特別な性質(マヨラナ性)を持つときにだけ起こりえます。
二重ベータ崩壊と同位体濃縮
二重ベータ崩壊をおこす元素は決まっています。たとえば、カルシウムやキセノンなどです。しかし、すべてのカルシウムやキセノンが二重ベータ崩壊をするわけではありません。たとえば、陽子の数が20 個、中性子の数が28 個のカルシウム48 は二重ベータ崩壊をおこしますが、中性子の数が20 個のカルシウム40 は二重ベータ崩壊しません。どんなにたくさんカルシウム40 を集めても、二重ベータ崩壊は起こってくれないのです。このカルシウム48 とカルシウム40 の関係—陽子の数は同じだけれど中性子の数が違う関係—を「同位体」と言います。陽子と中性子の数の合計、すなわち質量数が違う関係です。
二重ベータ崩壊の研究では、二重ベータ崩壊をおこす同位体であるカルシウム48 をたくさん集める必要があります。このように、たくさんあるカルシウムの中から特定の同位体—たとえばカルシウム48—を集めてくることを同位体濃縮と言います。二重ベータ崩壊の研究をするためには、この特定の同位体を集めてくる同位体濃縮技術がとても重要になります。
レーザー同位体濃縮
さて、同位体は化学的にはほぼ同じ性質を持ちます。そのため、特定の同位体だけを集めることは基本的には難しいです。それでも、わずかな違いを利用して集めることもできます。その方法の一つがレーザー同位体濃縮です。これは、レーザー光を使って、特定の同位体だけを選んで集める技術です。

濃縮原理。レーザー光を使って、特定の同位体だけを選んで集めます。
この方法では、同位体ごとにほんのわずかに異なる「光の吸収特性」を利用しています。例えば、質量数の違う複数の同位体が含まれている元素では、それぞれの同位体が吸収するレーザーの波長はほんの少しだけ違います。レーザー濃縮では、その違いを狙って、特定の同位体だけが吸収するレーザー光をカルシウムに当てます。この時に、レーザー光を吸収したカルシウム同位体、吸収していないカルシウム同位体、を分けることで、同位体分離を行います。このレーザー濃縮法は、高い同位体選択性を持ち、高濃度の同位体を集めやすいという利点があります。
同位体濃縮技術は、私たちが行っているような物理の研究に使われるほか、医療診断や治療の分野でも重要となっています。私たちは、この同位体濃縮法の開発を進めています。

レーザー同位体分離装置。カルシウムを飛ばす装置と、とても波長幅の狭いレーザーからできています。
宇宙はビッグバンから始まったと考えられています。その宇宙初期には「物質」と「反物質」が同じ量だけ生まれたはずです。ところが現在の宇宙には、「物質」しかほとんど存在していません。最初にもし「物質」と「反物質」が同じ量だったなら、「物質」と「反物質」は対で消滅したり、生成したりしても、それでも「物質」と「反物質」の量は同じになるはずです。——ならば、なぜ現在の宇宙は「反物質」がなく「物質」でできているのでしょうか?この謎を「物質優勢宇宙の謎」といいます。この謎を解くカギとされているのが、「ニュートリノを出さない二重ベータ崩壊」という事象です。
ニュートリノを出さない二重ベータ崩壊
二重ベータ崩壊は、ある原子核内の中性子2 個が陽子2 個に変わることで、別の原子核に変わるという事象です。通常の二重ベータ崩壊では、別の原子核になったうえで、2 個の電子と2 個のニュートリノが出てきます。しかし、「ニュートリノを出さない二重ベータ崩壊」では、電子だけが出て、ニュートリノは出てきません。この現象は、ニュートリノが「粒子自身と反粒子が同じ」という特別な性質—マヨラナ性—を持つときにだけ起こりえます。これは、とても不思議な性質です。普通、粒子には、反対の性質をもつ「反粒子」があります。たとえば、粒子である電子には反粒子として陽電子、のように普通はペアになっています。そのような中で、「粒子自身と反粒子が同じ」というのはとても不思議な性質なのです。—「粒子自身と反粒子が同じ」という不思議な性質によって反物質に対して物質が多く残った— これが「物質優勢宇宙の謎」を解く有力な説とされています。

ニュートリノを出さない二重ベータ崩壊。
ニュートリノが「粒子自身と反粒子が同じ」という特別な性質(マヨラナ性)を持つときにだけ起こりえます。
二重ベータ崩壊と同位体濃縮
二重ベータ崩壊をおこす元素は決まっています。たとえば、カルシウムやキセノンなどです。しかし、すべてのカルシウムやキセノンが二重ベータ崩壊をするわけではありません。たとえば、陽子の数が20 個、中性子の数が28 個のカルシウム48 は二重ベータ崩壊をおこしますが、中性子の数が20 個のカルシウム40 は二重ベータ崩壊しません。どんなにたくさんカルシウム40 を集めても、二重ベータ崩壊は起こってくれないのです。このカルシウム48 とカルシウム40 の関係—陽子の数は同じだけれど中性子の数が違う関係—を「同位体」と言います。陽子と中性子の数の合計、すなわち質量数が違う関係です。
二重ベータ崩壊の研究では、二重ベータ崩壊をおこす同位体であるカルシウム48 をたくさん集める必要があります。このように、たくさんあるカルシウムの中から特定の同位体—たとえばカルシウム48—を集めてくることを同位体濃縮と言います。二重ベータ崩壊の研究をするためには、この特定の同位体を集めてくる同位体濃縮技術がとても重要になります。
レーザー同位体濃縮
さて、同位体は化学的にはほぼ同じ性質を持ちます。そのため、特定の同位体だけを集めることは基本的には難しいです。それでも、わずかな違いを利用して集めることもできます。その方法の一つがレーザー同位体濃縮です。これは、レーザー光を使って、特定の同位体だけを選んで集める技術です。

濃縮原理。レーザー光を使って、特定の同位体だけを選んで集めます。
この方法では、同位体ごとにほんのわずかに異なる「光の吸収特性」を利用しています。例えば、質量数の違う複数の同位体が含まれている元素では、それぞれの同位体が吸収するレーザーの波長はほんの少しだけ違います。レーザー濃縮では、その違いを狙って、特定の同位体だけが吸収するレーザー光をカルシウムに当てます。この時に、レーザー光を吸収したカルシウム同位体、吸収していないカルシウム同位体、を分けることで、同位体分離を行います。このレーザー濃縮法は、高い同位体選択性を持ち、高濃度の同位体を集めやすいという利点があります。
同位体濃縮技術は、私たちが行っているような物理の研究に使われるほか、医療診断や治療の分野でも重要となっています。私たちは、この同位体濃縮法の開発を進めています。

レーザー同位体分離装置。カルシウムを飛ばす装置と、とても波長幅の狭いレーザーからできています。