ニュートリノが開く理論のフロンティア

ニュートリノで読み解く星の最期
私たちが夜空に見る星の光の裏側では、常に重力と圧力のせめぎ合いが続いています。質量の大きな星は一生の終わりにこの均衡を失い、中心が一気につぶれる重力崩壊を起こします。これが、超新星爆発へとつながる壮大な現象の第一歩です。

崩壊の中心で起こるニュートリノの“解放”
星が鉄まで作り終えると、核融合で支えることができなくなり、中心部は自分自身の重さで崩れ始めます。このとき、電子と陽子が結びついて中性子へ変わり、同時に大量のニュートリノが生まれます。ニュートリノは、星の中心に閉じ込められた途方もないエネルギーを外へ運び出す役目を担い、その放出量は太陽の一生分のエネルギーを一瞬で上回ります。超新星爆発とは、重力によって崩れた星が、ニュートリノによって押し返されるという、重力と量子現象が結びついた壮大なプロセスなのです。

シミュレーションが描く爆発のメカニズム
この爆発の仕組みを理論的に解き明かすためには、重力・流体力学・輻射(放射)輸送・量子統計が同時に作用する複雑な方程式を扱う必要があります。そこで用いられるのが、ニュートリノ輻射輸送を含む多次元数値シミュレーションです。超新星内部は、ほんの数キロの距離で密度・温度・圧力が激しく変化します。そのため、シミュレーションでは空間を細かい格子に分割し、ミリ秒以下の単位でニュートリノの発生・吸収・散乱を計算しながら時間発展を計算します。近年の研究で明らかになったのは次の点です。

  • 爆発は球対称では説明できず、3次元の揺らぎ(対流・乱流)が不可欠
  • ニュートリノの加熱量がわずかに変わるだけで、爆発の成否が変わる
  • 初期の回転や磁場の強さも爆発の形を左右する
つまり、超新星爆発は、数値シミュレーションによってはじめて理解できる、非常に繊細でダイナミックな現象だと言えます。

ニュートリノの性質が爆発そのものを変える
ニュートリノは”フレーバー”と呼ばれる種類(電子型・ミュー型・タウ型)を持ちますが、飛行中にこれらが互いに変換するニュートリノ振動が起こります。超新星内部の高密度環境では、この振動が通常とは異なる特別な形で発生し、ニュートリノのエネルギー分布が再配分されます。これにより、外層への加熱効率や、爆発で作られる元素の割合が変化します。したがって超新星爆発の理論研究は、ニュートリノ振動という量子力学の現象が、星全体のダイナミクスを左右するという、マクロとミクロをつなぐユニークな研究分野でもあります。

進化する理論:星の“最期の選択”を決める条件
シミュレーションによって、理論的に分かり始めていることがあります。

  • どれほどの質量・回転・磁場の星が中性子星になるか
  • どの条件で星はブラックホールへ直接崩壊してしまうか
  • 爆発の強さがどの元素の量を決めるのか
これらはまだ完全に解明されてはいませんが、ニュートリノ物理を精密に取り入れたモデルが、その鍵を握っています。

まとめ:ニュートリノが開く理論のフロンティア
ニュートリノは物質をすり抜け、観測も難しい粒子ですが、星の内部を語るもっとも確かな証人です。数値シミュレーションとニュートリノ物理の発展により、超新星爆発の仕組みは、いま方程式として描ける現象になりつつあります。星はなぜ爆発し、どんな元素を生み、どのような最期を迎えるのか。その答えを導くカギは、今も宇宙を飛び続けるニュートリノの中にあります。
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著者

諏訪雄大
計画研究E02代表
東京大学准教授
昼に予定がない日は大学のグラウンドでほぼ毎日サッカーをしています。出張中の運動不足解消が難題です。

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