宇宙線ミューオンと原子核の吸収反応、稀に生成される原子核の初観測
宇宙の成り立ちにはまだ多くの謎が残されています。天文学者たちは望遠鏡を使って星や銀河を観測していますが、宇宙を調べる方法はそれだけではありません。宇宙から地球に降り注ぐ「素粒子」を観測することで、宇宙の仕組みを探る研究も行われています。
宇宙線にはニュートリノと呼ばれる素粒子があります。ニュートリノは物質とほとんど反応しないため、観測が非常に難しい素粒子です。しかし、太陽内部の核融合や超新星爆発など、天体現象を理解するためにはニュートリノをたくさん観測する必要があります。
私は後述のスーパーカミオカンデを用いて宇宙線ミューオンの性質を調べる研究を進めています。一見すると、素粒子の1つであるミューオンの観測は、ニュートリノ研究とは関係の無い研究に見えますが、ともに弱い力とよばれる相互作用を通して原子核と反応をします。したがって、ミューオンと原子核の反応を調べる研究を通して、間接的かつ相補的にニュートリノ研究の精度向上を目指しています。
岐阜県飛騨市の神岡鉱山地下1000メートルに建設されたスーパーカミオカンデは、ニュートリノ研究を行う世界有数の観測装置です。5万トンの超純水 (最近はレアアースのガドリニウムも溶解しています)を水槽に貯め、ニュートリノ観測を行っています。水槽の内側には1万本以上の光電子増倍管(光センサー)が設置されています。電荷をもつ粒子が水の中を光速よりも速く進むと「チェレンコフ光」と呼ばれる光が発生します。光センサーはその微弱な光を検出し、粒子の種類や進行方向、エネルギーなどを推定します。また、地下1000メートルという深い場所に設置されている理由は、山全体が巨大な遮へい体となり、観測したいニュートリノを通す一方で、今回のトピックである宇宙線ミューオンを減らすためです。
地球には常に宇宙線と呼ばれる高エネルギー粒子が降り注いでいます。宇宙線の多くは陽子で、大気中の原子核と衝突すると多数の粒子を生み出します。その衝突を通して大量に生成されるのがミューオンです。ミューオンは電子によく似た性質を持っていますが、電子に比べて質量が約200倍あります。また、寿命は約200万分の1秒と非常に短い粒子ですが、光に近い速度で飛ぶため、相対論の効果により地上や地下まで到達できます。この性質により、ミューオンは常に我々の身体を貫通している身近な素粒子の1つです。
宇宙線ミューオンは地下1000メートルに位置するスーパーカミオカンデにも到達してしまうほど、高い貫通力を有しています。そのような宇宙線ミューオンの内、ちょうどスーパーカミオカンデの中で自身のエネルギーを失ってしまうミューオンが今回のトピックです。負の電荷を持つミューオンは超純水中の酸素原子核に引き寄せられ、原子核の周辺を回る状態になります。その後、酸素原子に吸収されてしまい、「ミューオン捕獲反応」とよばれる原子核反応を起こします。このミューオン捕獲反応は弱い力の相互作用の結果、酸素原子核を他の原子核へと変換してしまいます。新しく生成された原子核の一部は、放射性原子核となり、ある程度の時間差でニュートリノの信号と区別のつかないノイズとなる信号を作り出してしまいます。もしこのような放射性原子核の生成量が正しく分からなければ、本物のニュートリノ信号を正確に測定できません。
図1に本研究の概要を示します。たとえば、太陽中心の核融合反応によって生成される太陽ニュートリノは、スーパーカミオカンデ検出器中の電子を弾き飛ばし、チェレンコフ光を発生させます。一方で、放射性原子核 (たとえば窒素16)は生成された後、約7秒すると電子を放出して崩壊します。この放射性原子核による電子の放出は太陽ニュートリノからの信号と区別が付かないためノイズとなり、太陽ニュートリノ観測の障害になります。

図 1:本研究の概要
私はこのような負の電荷をもつミューオンが酸素原子核に捕獲された場合に生成される原子核の生成分岐比を調べる研究を行いました。その結果、窒素16の生成分岐比を世界最高精度で測定し、炭素15、ホウ素12、ホウ素13の生成分岐比については世界初の測定に成功しました。図2に測定結果を示します。赤色の丸印が今回の研究により測定した結果であり、青色の四角印がこれまでに測定された結果です。また、黒色の三角印、緑色のひし形印、水色の星印はシミュレーションを利用した分岐比の予想です。図を見てもらうとわかるように、3つシミュレーションは異なる予想を示しており、本研究よって得られた生成分岐比の結果は、シミュレーションの改良を要求する結果となりました。
本研究を通して、スーパーカミオカンデのノイズの量を定量的に評価することができ、今後のニュートリノ研究をさらに推し進めることができるようになりました。また、ミューオンと原子核との間の相互作用(弱い力)に新しい知見を得ることができ、素粒子原子核物理学のより基礎的な研究に役立つ結果になりました。

図 2:生成分岐比の測定結果
参考文献
Phys. Rev. C 112, 064614 (2025)
宇宙線にはニュートリノと呼ばれる素粒子があります。ニュートリノは物質とほとんど反応しないため、観測が非常に難しい素粒子です。しかし、太陽内部の核融合や超新星爆発など、天体現象を理解するためにはニュートリノをたくさん観測する必要があります。
私は後述のスーパーカミオカンデを用いて宇宙線ミューオンの性質を調べる研究を進めています。一見すると、素粒子の1つであるミューオンの観測は、ニュートリノ研究とは関係の無い研究に見えますが、ともに弱い力とよばれる相互作用を通して原子核と反応をします。したがって、ミューオンと原子核の反応を調べる研究を通して、間接的かつ相補的にニュートリノ研究の精度向上を目指しています。
岐阜県飛騨市の神岡鉱山地下1000メートルに建設されたスーパーカミオカンデは、ニュートリノ研究を行う世界有数の観測装置です。5万トンの超純水 (最近はレアアースのガドリニウムも溶解しています)を水槽に貯め、ニュートリノ観測を行っています。水槽の内側には1万本以上の光電子増倍管(光センサー)が設置されています。電荷をもつ粒子が水の中を光速よりも速く進むと「チェレンコフ光」と呼ばれる光が発生します。光センサーはその微弱な光を検出し、粒子の種類や進行方向、エネルギーなどを推定します。また、地下1000メートルという深い場所に設置されている理由は、山全体が巨大な遮へい体となり、観測したいニュートリノを通す一方で、今回のトピックである宇宙線ミューオンを減らすためです。
地球には常に宇宙線と呼ばれる高エネルギー粒子が降り注いでいます。宇宙線の多くは陽子で、大気中の原子核と衝突すると多数の粒子を生み出します。その衝突を通して大量に生成されるのがミューオンです。ミューオンは電子によく似た性質を持っていますが、電子に比べて質量が約200倍あります。また、寿命は約200万分の1秒と非常に短い粒子ですが、光に近い速度で飛ぶため、相対論の効果により地上や地下まで到達できます。この性質により、ミューオンは常に我々の身体を貫通している身近な素粒子の1つです。
宇宙線ミューオンは地下1000メートルに位置するスーパーカミオカンデにも到達してしまうほど、高い貫通力を有しています。そのような宇宙線ミューオンの内、ちょうどスーパーカミオカンデの中で自身のエネルギーを失ってしまうミューオンが今回のトピックです。負の電荷を持つミューオンは超純水中の酸素原子核に引き寄せられ、原子核の周辺を回る状態になります。その後、酸素原子に吸収されてしまい、「ミューオン捕獲反応」とよばれる原子核反応を起こします。このミューオン捕獲反応は弱い力の相互作用の結果、酸素原子核を他の原子核へと変換してしまいます。新しく生成された原子核の一部は、放射性原子核となり、ある程度の時間差でニュートリノの信号と区別のつかないノイズとなる信号を作り出してしまいます。もしこのような放射性原子核の生成量が正しく分からなければ、本物のニュートリノ信号を正確に測定できません。
図1に本研究の概要を示します。たとえば、太陽中心の核融合反応によって生成される太陽ニュートリノは、スーパーカミオカンデ検出器中の電子を弾き飛ばし、チェレンコフ光を発生させます。一方で、放射性原子核 (たとえば窒素16)は生成された後、約7秒すると電子を放出して崩壊します。この放射性原子核による電子の放出は太陽ニュートリノからの信号と区別が付かないためノイズとなり、太陽ニュートリノ観測の障害になります。

図 1:本研究の概要
私はこのような負の電荷をもつミューオンが酸素原子核に捕獲された場合に生成される原子核の生成分岐比を調べる研究を行いました。その結果、窒素16の生成分岐比を世界最高精度で測定し、炭素15、ホウ素12、ホウ素13の生成分岐比については世界初の測定に成功しました。図2に測定結果を示します。赤色の丸印が今回の研究により測定した結果であり、青色の四角印がこれまでに測定された結果です。また、黒色の三角印、緑色のひし形印、水色の星印はシミュレーションを利用した分岐比の予想です。図を見てもらうとわかるように、3つシミュレーションは異なる予想を示しており、本研究よって得られた生成分岐比の結果は、シミュレーションの改良を要求する結果となりました。
本研究を通して、スーパーカミオカンデのノイズの量を定量的に評価することができ、今後のニュートリノ研究をさらに推し進めることができるようになりました。また、ミューオンと原子核との間の相互作用(弱い力)に新しい知見を得ることができ、素粒子原子核物理学のより基礎的な研究に役立つ結果になりました。

図 2:生成分岐比の測定結果
参考文献
Phys. Rev. C 112, 064614 (2025)


中野佑樹
